東京地方裁判所 昭和45年(ワ)1102号 判決 1971年8月31日
原告
東浩巳
ほか一名
被告
日の丸自動車株式会社
ほか一名
主文
被告らは各自原告東浩已に対し金四七七万四四二〇円ならびにうち金四五二万四四二〇円に対する昭和四四年五月二五日以降、およびうち金二五万円に対する同四六年九月一日以降各支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いを、原告東眞由に対し、金六五四万八八三九円および右金員に対する昭和四四年五月二五日以降支払い済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
原告らの被告らに対するその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを五分し、その二を原告らの、その余を被告らの、各負担とする。
この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、かりに執行することができる。
ただし被告らが金八〇〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。
事実
第一、請求の趣旨
一、被告らは連帯して原告東浩巳に対し七八〇万〇三九五円および原告東真由に対し一〇二一万四〇二九円ならびに右各金員に対する昭和四四年五月二五日以降支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。
二、訴訟費用は被告らの負担とする。
との判決および仮執行の宣言を求める。
第二、請求の趣旨に対する答弁
一、原告らの請求を棄却する。
二、訴訟費用は原告らの負担とする。
との判決を求める。(なお、被告日の丸自動車株式会社は、担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。)
第三、請求の原因
一、(事故の発生)
東逸雄(以下「亡逸雄」という。)は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて死亡した。
(一) 発生時 昭和四四年五月二四日午後一一時一〇分頃
(二) 発生地 東京都葛飾区新小岩一丁目二二番三号先交差点
(三) 加害車(A) 営業用自動車(以下「加害車(A)」という。)
運転者 石田典夫
(四) 加害車(B) 営業用自動車(以下「加害車(B)」という。)
運転者 今村務
(五) 被害者 亡逸雄(加害車(A)に同乗中)
(六) 態様 加害車(A)と加害車(B)とが前記交差点において出会頭に衝突したため、亡逸雄は右路上に放り出され、コンクリート路面に頭部を激突させた。
(七) 被害者たる亡逸雄は事故後約七時間にして死亡した。
二、(責任原因)
被告日の丸自動車株式会社(以下「日の丸自動車」という。)は、加害車(A)を所有し、被告株式会社帝全交通(以下「帝全交通」という。)は加害車(B)を所有し、それぞれ自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、本件事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。
三、(損害)
(一) 葬儀費等 一四四万三三八〇円
原告浩巳は、亡逸雄の事故死に伴い、次のとおりの出捐を余儀なくされた。
(1) 葬儀関係費 七三万九三八〇円
(2) 墓所購入費等 四八万円
(3) 墓石代 二二万四〇〇〇円
(二) 被害者に生じた損害
(1) 逸失利益 一七九七万一〇四四円
亡逸雄が死亡によつて喪失した得べかりし利益は、次のとおり一七九七万一〇四四円と算定される。
(死亡時) 二八歳四か月(昭和一六年一月二四日生)
(推定余命) 四一・八八年(平均余命表による)
(稼働可能年数) 三五年
(収益) 亡逸雄は、当時株式会社扇雀飴に販売係長として勤務していたが、昭和四四年六月一日から営業課長に昇進することに内定しており、その際の月給は七万五五四四円、賞与は給与の二・八一か月分であるから、同人の得べかりし年収は一一二万七八七一円の予定であつた。
(控除すべき生活費) 右収益の二割
(毎年の純利益) 九〇万二二九六・八円
(年五分の中間利息控除) ホフマン複式(年別)計算による。
(2) 土地購入手付金没収による損害 五五万円
亡逸雄は、昭和四四年五月一八日相銀地所株式会社から千葉県習志野市藤崎町八丁目三六三番地所在の土地三〇坪を代金一八六万円で買受ける契約を締結し、同人は同年同月二一日右会社に手付金五五万円を支払つた。ところが、亡逸雄はその三日後に本件事故によつて急逝したため、残代金の支払ができなくなり、結局右会社に右手付金を全額没収され、同額の損害を蒙つた。
(3) 相続
原告らは亡逸雄の相続人の全部である。よつて、原告浩巳はその生存配偶者として、原告真由は、子として、それぞれ相続分に応じ亡逸雄の賠償請求権を相続した。その額は、原告浩巳において六一七万三六八一円、原告真由において一二三四万七三六三円である。
(三) 原告らの慰藉料
原告浩巳は本件事故により敬愛する夫を失い、病弱の身でありながら、今後幼児をかかえて一人で生活して行かなければならず、原告真由は幼くして父を失い、今後父の顔も判然としないまま一生を送らなければならないのであつて、いずれも将来に対する不安は甚だ大きいものである。したがつて、その精神的損害を慰藉するためには、原告両名に対し各二〇〇万円が相当である。
(四) 損害の填補
原告浩巳は既に被告日の丸自動車から損害賠償内金六万六六六六円、自賠責保険金二〇〇万円の各支払いを受け、原告真由は、既に同被告から損害賠償内金一三万三三三四円、自賠責保険金四〇〇万円の各支払を受けたので、それぞれ前記損害額から控除する。
(五) 弁護士費用 二五万円
被告らは右損害賠償債務の任意の弁済に応じないので、原告浩巳は弁護士たる本件原告ら訴訟代理人にその取立てを委任し、同原告は昭和四四年九月二九日手数料として二五万円を支払つた。
四、(結論)
よつて、被告ら各々に対し、本件事故による損害賠償として、原告浩巳は七八〇万〇三九五円、原告真由は一〇二一万四〇二九円および右各金員に対する事故発生の日以後の日である昭和四四年五月二五日以後支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
第四、被告日の丸自動車の事実主張
一、(請求原因に対する認否)
(一) 第一項の事実は認める。
(二) 第二項の事実は、同被告に関する部分を認める。
(三) 第三項の各事実のうち、(四)の事実は認めるが、その余の事実は知らない。
なお、(二)の(2)および(一)の(2)、(3)の損害は本件事故との相当因果関係を欠くものである。
二、(損害に関する主張)
(一) 収入額について
(1) 亡逸雄の勤務していた株式会社扇雀飴(以下、「訴外会社」という。)は同族会社的中小企業であるうえ、亡逸雄の妻は訴外会社の社長の姪にあたること、昇給額が大幅なものであること、同人の後任が内定していなかつたことなどからすると、亡逸雄の東京支店営業課長への昇進・昇給は同人の事故死に伴う恩情的・情実的なものであるから、右昇進・昇給を前提とする原告らの逸失利益の主張は失当である。
仮に昇進・昇給が事実であるとしても、昇給額は未確定だつたのであるから、最も控え目な八〇〇〇円の昇給を基礎にして算定すべきである。
(2) また、原告ら主張の賞与額は、訴外会社の業績が芳しくなく、賞与率が昭和四一年以来年々低下していることに鑑みて失当であり、賞与額としては控え目にみて、昭和四三年度の賞与率二・三二か月分を基準にすべきである。
(二) 逸失利益の相続について
遺族が死者の損害を相続するという構成には理論的に矛盾があるばかりでなく、原告浩巳はまだ若く再婚の可能性もあり、右の相続の構成を採つた場合と、扶養請求権の侵害という構成をとつた場合とで大きな格差が出てくる筈であるから、逸失利益の算定にあたつては、この点を考慮して控え目な算定がなさるべきである。
(三) 弁護士費用について
本件については、裁判所から再度の和解勧告がなされ、被告側は最終的には裁判所の勧告案に従い、和解に応じる旨申し出たにも拘らず、原告側において弁護士費用および遅延損害金の支払を求めるため和解勧告に応ぜず、やむなく判決に至つたものであつて、原告らは紛争の早期解決に非協力的だつたのであるから、弁護士費用のうち、成功報酬は必要性がないものというべきであり、仮りに認められるとしても右の事情に照らし大幅に減額さるべきである。
三、(抗弁)
(一) 損益相殺
仮に、亡逸雄の収入が原告ら主張のとおりであるとしても、逸失利益の算定にあたつては、(1)所得税として年額四万三七〇〇円、(2)都民税として年額一万六八六〇円、(3)特別区民税として年額三万円、以上合計年間税額九万〇五六〇円を損益相殺として控除すべきである。
(二) 損害の填補
被告日の丸自動車は本件事故発生後、原告主張の弁済額のほかに賠償の内金として五万円の支払いをしたので、右額は控除さるべきである。
第五、被告帝全交通の事実主張
一、(請求原因に対する認否)
(一) 第一項の事実は認める。
(二) 第二項の事実のうち同被告に関する部分は認める。
(三) 第三項の各事実のうち、原告らが自賠責保険金六〇〇万円および二〇万円の支払をうけたこと、原告らが葬儀を行つたことは認めるが、その余の事実は知らない。なお、(二)の(2)の損害は本件事故との相当因果関係を欠くものである。
二、(損害に関する主張)
被告日の丸自動車の主張のとおりであるから、これを援用する。
三、(抗弁)
被告日の丸自動車主張の抗弁(一)のとおりであるから、これを援用する。
第六、被告らの主張および抗弁事実に対する答弁
被告らの主張事実および抗弁事実のうち、抗弁(二)の五万円を原告らが受領したことは認めるが、その余はすべて争う。(なお、右五万円は香典として受領したものに過ぎず、また税金は本来損益相殺の対象とならないものであるから、いずれも控除さるべきではない。)
第七、証拠関係〔略〕
理由
一、事故の発生および責任原因
本件事故の発生に関する請求原因一の事実および被告らの運行供用者責任に関する請求原因二の事実は、いずれも当事者間に争がない。したがつて、被告らは、原告らが本件事故によつて蒙つた損害を賠償すべき責任がある。
二、損害
そこで次に原告らの損害について検討する。
(一) 葬儀費等 二五万円
〔証拠略〕を総合すると、原告浩巳は、亡夫逸雄の葬儀関係費用として原告ら主張のとおり合計七三万九三八〇円を支出したことが認められる。また、〔証拠略〕を総合すると、原告浩巳は、亡夫逸雄の遺骨を埋葬するために昭和四四年七月三一日奈良市富雄中町の霊山寺東光院霊園内に約五坪の墓地を購入して永代使用料、工事費等として四八万円を支出したほか、同日同市同町の辻本石材商から墓石等を購入し、代金二二万四〇〇〇円を支出したことが認められ、右認定に反する丙第一号証および証人鈴木健二郎の証言は間接的であるうえ不明確であつて、前掲各証拠に対比して採用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。そして、後記認定の亡逸雄の職業・社会的地位等に照らして、以上認定の葬儀関係費および墓地・墓石購入費のうち、二五万円が本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めることができる。
(二) 亡逸雄の損害
1 逸失利益 一三〇七万三二五九円
(1) 〔証拠略〕を総合すると、亡逸雄は中学卒業後昭和三三年頃訴外会社に入社し、昭和三一年頃以来同社の東京支店に勤務して来、本件事故当時までには営業部係長をほぼ三年間勤めていたが、本件事故当時は実際には第三課の代表格で課長同様の仕事をしていたこと、同人は昭和四四年三月初め頃訴外会社の支店長会議において課長に昇進することに内定していたが、その正式発令は約二か月遅れて同人の死亡直後の同年六月一日になつたこと、亡逸雄の月間給与は、昭和四一年六月には四万一二二九円、同年一二月には四万五〇〇〇円、同四二年六月には四万九五三〇円、同年一二月には五万一七八〇円、同四三年六月には五万五八六二円、同年一二月には六万七〇八二円(但し、同四四年三月以降は手当等の減額により六万五五四四円)と順次年二回ずつ昇給してきていて、同四四年六月一日課長への昇格の暁には、七万五五四四円となる予定であり、また賞与は、昭和四一年度が同年六月当時の月給の三・〇四か月分、同四二年度が同月給の二・六六か月分、同四三年度が同月給の二・七八か月分であるから、同四四年度分としては右三年間の平均(賞与率は、被告ら主張のように低下の一途を辿つているものではないから、平均値をとるのが相当である。)である二・八一か月分(正確には二・八二か月分であるが、原告らはこれを下廻る数値を主張するので後者による。)にあたる二一万二二七八円の賞与を取得しえたのであつて、同人の本件事故当時における将来に向つての得べかりし年収は一一一万八八〇六円となる予定だつたことが認められ、右認定に副わない丙第一号証は調査員の推測に基づくものであり、かつ、前掲各証拠に対比して信用するに足らない。
もつとも、〔証拠略〕によると、訴外会社は資本金一〇〇〇万円、従業員約五三〇名の中小企業であり、亡逸雄の妻である原告東浩巳は訴外会社社長の姪にあたることが認められるから、同人が同社内で他社員よりも優遇されることも推測されなくはないが、前記認定の事実関係からすれば、右事実をもつて、原告らに不当に高額な損害賠償を取得させるために本件事故後に亡逸雄の前記昇進を発令したものと断ずることはできない。また、亡逸雄の最後の昇給額一万円がそれ以前の平均的な昇給額に比してかなり高いものであることは前記認定のとおりであるが、〔証拠略〕によると、課長の役付手当は係長のそれより月額四五〇〇円ないし一万二五〇〇円高く、課長の営業手当も係長のそれより月額三〇〇〇円ないし一万四〇〇〇円高いことが認められるから、これに昇格に伴う基本給の上昇を併せ考えると、亡逸雄の前記昇給額は、不当に高額なものと云うことはできない。
ところで、被告らは逸失利益の算定に当り、亡逸雄の収入から税金(所得税、都民税、特別区民税)を控除すべき旨主張するので、この点について判断する。およそ逸失利益を算出するに当り基礎とすべき年収額の算定については、それに所得税ないし住民税が賦課されることの明らかな場合には相当税額を控除すべきものと解する。思うに、逸失利益は被害者が事故に遭過しなかつたならば取得しえたであろう財産的利益の喪失を意味するところ、個人が勤労等により税法上課税されるべき所得をあげた場合には税率に従い相応の所得税、住民税等が賦課・徴収され、国民としてはこれに応ずる義務があるから、事故に遭わなかつたと仮定した場合に正当に取得しえた財産的利益は、右税金を控除したものと考えるべきであり、さもないと、被害者に不当に税金を納付しないでいた場合と同様の財産的利益を取得させることになるからである。また、所得税法九条一項二一項は損害賠償金を非課税所得としているが、右の損害賠償金とは、前記のような損害額算出の課程を経て最終的に決定される賠償額をいうのであり、算出過程における仮定的収入とはもともと関係ないのであつて、右規定をもつて、仮定的収入から税金を控除すべきでないことの根拠とすることはできないと考えられるからである(なお、東京地裁昭和四五年八月一二日判決、判例時報六一八号六九頁以下参照。)。そこで、本件についてこれをみてみると、亡逸雄の年間給与所得が一一一万八八〇六円であることは前記のとおりであるから、所得税法(昭和四四年法一四号)により昭和四四年分の所得税額を算定すると基礎控除が一六万七五〇〇円、配偶者控除が同額、扶養控除が九万五〇〇〇円であるから、課税所得額は四〇万〇〇五四円であつて、税額は計算上四万四〇〇七円となる。また地方税法により同年分の都民税を算定すると、基礎控除が一二万円、配偶者控除が一〇万円、扶養控除が六万円であるから、課税所得額は八三万八八〇六円であつて、所得割の税額は計算上一万六七七六円となる(均等割税額は、所得に関係ないので、控除しない。)。さらに地方税法により同年分の特別区民税を算定すると、所得控除および課税所得額は都民税の場合と同額であるから、所得割の税額は計算上二万九四四〇円となる(均等割税額を控除しないことは都民税の場合と同じである。)。したがつて、亡逸雄の前記所得から控除すべき所得税、住民税の総額は九万〇二二三円であるから、右控除後の年間所得は、一〇二万八五八三円となる。
(2) 次に亡逸雄の稼働可能期間についてみてみると、〔証拠略〕を総合すれば、訴外会社は就業規則上五五才の定年退職制度を採つているが、これはあまり勤続年数が長くなると退職金の支給額が高くなり過ぎるので、一応五五才定年退職という形で退職金を清算してその高額化を防ぐことおよびとくに能力のない従業員等を五五才限りで退職させることを目的として採用されたものに過ぎず、実際に創業以来現在までに五五才に達した従業員の中定年退職した者は全くおらず、現に六〇才以上の者も一三名に及んでいること、訴外会社の従業員は、いずれも五五才の定年限以降もそれ以前の給与を下廻らない給与の支給をうけていることが認められ、右認定に反する証拠はなく、他に右認定を覆すに足りる証拠もない(なお、証人米田市太郎の証言中には訴外会社には定年制はない旨の供述部分があるが、右は同会社の定年退職制の実際の運用のことを指称したものと解することができるから、右認定と矛盾するものではない。)ところで〔証拠略〕によると、亡逸雄が本件事故当時二八才四か月(昭和一六年一月二四日生)の男子であつたことが認められ、また厚生省発表の第一二回生命表によると、二九才の男子(亡逸雄の年令は、計算の便宜および控え目な損害算定の趣旨から、以下切上げて二九才とする。)の平均余命は四一・八二年であることは公知の事実であるところ、右事実に前記の訴外会社における従業員の稼働状況を併せ考えると、亡逸雄も少くとも六三才に至るまでの三四年間訴外会社に勤務し、その間前記認定の年収を下らない収入をあげえた(同人の二九才以降の逸失利益を算定することにしたから、右稼働期間中すべて前記の昇給後の収入によつて算定することができる。)ものと推測することができる。(なお、被告らは証人児玉行蔵の証拠調の申出が時機に遅れた攻撃防禦の方法であるから却下さるべき旨主張するが、右申出は、最終口頭弁論期日に提出された〔証拠略〕と一見矛盾するようにみえることが判明したため、右矛盾を解消すべくなされたものであるから、何ら時機に遅れた攻撃防禦方法とはいえず、被告らの主張は理由がない。)
ところで、被告らは、原告浩巳が若くて再婚する可能性があり、原告らの損害を、扶養請求権の侵害をいう構成をとる場合との格差を考慮して控え目に算定すべき旨主張するが、原告らが逸失利益の相続という構成をとつて請求しており、当裁判所としても右のような構成を一概に排斥すべきものとは考えないから、仮に原告浩巳の再婚の可能性があるとしても、この点を逸失利益の算定に反映させて控え目に稼働可能期間等を認定することはできないものというべきである。
(3) さらに、亡逸雄の生活費について検討すると、〔証拠略〕によると、亡逸雄の住居費および昼食代は訴外会社から支給されていたことが認められるところ、昭和四三年度家計調査年報における生活費の状況、平均的世帯における消費単位指数、亡逸雄の年令および前記年収額等に右認定事実を併せ考えると、亡逸雄の生活費は、同人の前記稼働期間を通じて前記収入の三割五分と認めるのが相当である。したがつて、亡逸雄の得べかりし純収入は生活費を控除すると、六二万八五七八円となる。
(4) そこで、右稼働期間中の逸失利益全額を本件事故発生の時点において一時に支払いをうけるものとして、ホフマン複式(年別)計算法により年五分の割合による中間利息を控除して算出すると、右逸失利益の現在価は、計算上一三〇七万三二五九円となる(その算式は別紙計算式のとおりである。)。
2 土地購入手附金没収による損害
〔証拠略〕を総合すると、亡逸雄は将来住居の敷地にすべく、昭和四四年五月一八日相銀地所株式会社から千葉県習志野市藤崎町八の三六三所在の農地九九・一七平方メートルを代金一八六万円で買受け、同年同月二一日同社に対し解約手附金として五五万円を支払つたこと、ところが、その三日後に亡逸雄が本件事故により急死したため、原告浩巳は親類、縁者もいない東京を離れて郷里へ帰ることに決め、事故の約一週間後に右売買契約を解除した結果、前記売主に前記手附金を没収されたこと、原告浩巳は右解約に先立ち、訴外会社の東京支店長と右土地の残代金を借金ないし保険金等により支払つて転売することにつき相談したが、当時夫を失つて気が動転していたため、結局転売するなどして手附金没収を免れる手段をとることまではしなかつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。とすれば、原告浩巳は、右土地を転売するなどして前記手附金の没収を免れうる余地がなかつたとは云えないから、右手附金没収による損害が本件事故と相当因果関係に立つものと認めることはできない。
3 相続
〔証拠略〕によると、原告浩巳は亡逸雄の妻であり、原告真由は同人の長女であつて、他に相続人はいないことが認められるから、原告浩巳は亡逸雄の前記逸失利益の三分の一にあたる四三五万七七五三円の損害賠償請求権を、原告真由は同人の前記逸失利益の三分の二にあたる八七一万五五〇六円の損害賠償請求権をそれぞれ相続したものというべきである。
(三) 原告らの慰謝料
〔証拠略〕によると、亡逸雄は真面目で人に好かれる性格の持主であつて、原告らに対しても優しい夫であり、父であつたこと、原告浩巳は一家の主柱である最愛の夫を不慮の事故によつて失つて悲嘆にくれ、健康を害した程であつたこと、また原告真由は僅か一才半にして父を失い、今後一生にわたり父のない子としての重荷を背負つて生きて行かねばならないであろうことが推認され、右認定に反する証拠はない。そこで以上認定の事実に本件事故態様その他諸般の事情を総合勘案すると、原告らの精神的苦痛に対する慰謝料としては、原告ら各々につき二〇〇万円(合計四〇〇万円)が相当である。
(四) 損害の填補
原告らの損害について、自賠責保険金として原告浩巳が二〇〇万円、原告真由が四〇〇万円の各支払をうけたこと、被告からの任意弁済として原告浩巳が六万六六六六円、原告真由が一三万三三三四円の各支払をうけたことは当事者間に争がないから、前記損害額から右各金額を控除すべきことになる。また原告らが被告日の丸自動車から五万円を受領したことは当事者間に争がないが、原告らは右金員は香典であるから損害から控除すべきものではない旨主張するところ、原告東浩巳の本人尋問(第一回)の結果によると、右金員が香典として交付されたことが認められるが、右金員の交付の趣旨が香典であつても、金額等に鑑み慰謝料の一部の支払いと解するのが相当であつて、結局法定相続分に照らし、右金員のうち一万六六六七円が原告浩巳に、三万三三三三円が原告真由にそれぞれ弁済されたものと推認するのが相当である。
(五) 弁護士費用 二五万円
〔証拠略〕によると、請求原因三の(五)記載のとおりの事実が認められるところ、本件訴訟の経緯に鑑み(和解の経緯も含めても)、右弁護士費用は本件事故と相当因果関係に立つ損害と認めるのが相当である。
三、結論
以上判示の理由により、被告らは各自本件事故による損害賠償として原告浩巳に対し四七七万四四二〇円およびうち弁護士費用を除いた四五二万四四二〇円に対する本件事故の日の翌日である昭和四四年五月二五日から、弁護士費用二五万円に対する本判決言渡の日の翌日である昭和四六年九月一日から各完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を、原告真由に対し六五四万八八三九円および右金員に対する前記の昭和四四年五月二五日から完済まで前記の割合による遅延損害金の支払を、それぞれなすべき義務があることが明らかである。
よつて、原告らの各請求は、右の限度において理由があるから認容し、その余は失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言および仮執行免脱宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤和夫)
(別紙) 計算式表
1028583×(1-35/100)×19.5538=13073259.0725